消滅都市 オリジナルサウンドトラック vol.1
座談会前半

消滅都市 オリジナルサウンドトラック vol.1
座談会前半
Track01 Eternity

―― まずは、タイトル画面と、イベントシーンで使用されているこの曲からです。

kawagoe
(曲が流れた途端に)えぇ曲やなぁ。
kato
この曲はすぐできたね。たぶん全曲中でも一番時間がかかってないよ。
kawagoe
そうなんですね!
kato
当初からタイトル画面とイベントシーンでの使用を予定している曲、というオーダーで、ゲームのメインテーマになるメロディーラインが欲しい、ということだったんだけど、ゲーム全体のイメージとか雰囲気とか、そういうのを汲み取っていたら、すんなりと。
kawagoe
全曲の中で、この曲だけがピアノとシンセだけのシンプルなバラードじゃないですか。だから、この曲がかかったときのインパクトが本当にすごくて。引き算の美学と言うか、ハッとさせられるものがあります。

―― 制作時間は短かったとのことですが、それでもこだわった点などはありますか?

kato
実は、ゲーム内では分かりにくいんだけど、わざとピアノにノイズが入っている音を選んでいて。喪失感を演出するつもりで、「昔、ピアノの演奏をカセットテープで録音しました」っていうような、サーってノイズを残しています。
kawagoe
そうだったんですか!ノスタルジックに感じるのはメロディーの運びのせいだけじゃなくて、音そのものへのこだわりもあったんですね!ちなみにそのピアノの音源の名前って訊いてもいいですか?
kato
“Piano In Blue”だね。
kawagoe
勉強になります!まさかこんなバックグラウンドがあるとは思っていませんでした!

―― ちなみに、そんなノスタルジックな、喪失感のある曲に、“Eternity(永遠)”と名付けたのはどのような意図だったんでしょうか?

kato
うん、そこはね、なんにも考えてない(一同大笑い)
kawagoe
(笑いながら)なにも考えてないってことはないんでしょうけどね、でも加藤さんらしいです(笑)

―― まさかこんなオチがつくとは(笑) いや、でも、いい題名だと思います、ほんと(笑)

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Track02  I miss you baby

―― 次は、メインとなるステージ曲ですね。

kato
これは、さっきの「Eternity」とは対照的に、完成までにむちゃくちゃ時間がかかった曲だね。今の曲調になるまでに本当にいろんなバージョンを作ったよ。
kawagoe
途中、かわいらしい方向に行ったりしましたよね。
(※ 「消滅都市 オリジナルサウンドトラック vol.2」に収録の「Now I feel U」などのこと。)
kato
そうそう。でもそっちじゃなくて、かっこよさは必要だったみたいで。

―― ではリテイクの理由としては、曲調とゲームのマッチ具合、だったんですね。

kato
そう。キャッチーでおしゃれで疾走感があって、というオーダーだったんだけど、その雰囲気を音楽に落とし込むのに時間がかかった感じだね。

―― でもその甲斐あって、この曲は多くの反響・ご好評をいただいています!

kato
ありがとうございます。
kawagoe
本当にありがたいお話ですよね。こうして「消滅都市」のサントラを作ろうという話になったきっかけの曲と言えると思います。
kato
たしかにね、この曲で開眼したと言うか、この曲には「消滅都市」の曲の中で多用している手法がいろいろ詰まっていて、一番世界観を象徴しているかもしれない。

―― それはたとえばどんな手法でしょう。

kato
たとえば……(実際に曲を流しながら)00:50あたりからの、コードを一切無視したハーモニーとか(笑)
kawagoe
あぁ、メロディーに完全に平行な動きを重ねているんですね(笑)
kato
そうそう(笑) ゴリ押しハーモニー(一同笑)
kawagoe
なるほど、ハーモニーを付けたと言うよりは、別の音色にした、って感じの効果がありますよね。
kato
「I miss you baby」の中でもう一回使うくらい、自分の中で流行ったね(一同笑)

―― 01:43あたりからの動きですね。たしかにここも同じ手法です。

kato
あとは、ピッチダウン。
kawagoe
あぁ、それは確かに!「消滅都市」の音楽の特徴のひとつと言っていいくらいですよね!

―― 00:12あたりとか、00:42あたりとか、00:56あたりとかのお話ですね。

kawagoe
これは、なんでしょうね、ストップ感と言うか、タクヤが失敗して落ちちゃうときのスリリング感とかが、無意識に出てしまったんでしょうかね。
kato
そうかもしれないね。

―― 効果音的と言えるかもしれませんね。

kato
あ、効果音についてはね、本当にたくさん話したいことがあるんで、後半をお楽しみに(一同笑)
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Track03 Satellite

―― 次は通常ステージのボス曲「Satellite」です。

kawagoe
僕これ大好きなんですよ!加藤さんには、真摯で、謙虚で、おしゃれな音楽を作ってっていうイメージがあるかと思うんですけど、もうそんなの「とんでもない!」って感じの、いい意味で「なんてイカレた人なんだろう!」っていう感じが出てて(一同大笑い)
kato
否定はしないけどさ(再び大笑い)

―― いいんですか否定しなくて!(笑)

kawagoe
僕にはね、加藤さんの中には、狂気というか、暴力的な衝動みたいなのがどこかに潜んでいるようにずっと見えていて。だからこの曲みたいな、周りを無視して押し通しちゃうみたいな感じがすっごく好きです(笑)
kato
そういう意味ではさ、さっきのゴリ押しのハーモニーだって、そういうところの表れかもしれない(笑) 音楽的に言ったら、半音がぶつかってるとか、いろいろおかしなところはあると思うんだけど、そういうのはあえて無視してるもんね(笑)
kawagoe
普通だったら、音楽を長くやっていたり、ちゃんと勉強したりしている人ほど、半音のぶつかりが気になったりして、繰り返し聞いてる内に最後の最後で手直ししちゃったりして、結局トゲのないと言うか、まるい音楽になっちゃうと思うんですけど、潔く無視して進んでる感じがいいですよね!(笑)

―― (笑いながら)話題を変えまして、この曲で大変だった点をお伺いできますか。

kato
2段階構成になるように、ってオーダーだったんだけど、その後半に「Eternity」のメロディーを入れ込む、ってオーダーが大変だったね。

―― そうなんですね!とても自然に聞こえていますが、ご苦労があったとは。

kawagoe
いま2段階構成、というお話ありましたけど、前半と後半の展開の繋がりが、全然ベタじゃなくて、あんまり聞いたことがないような手法の方に感じました。
kato
最近のEDM(※)の手法で行くとベタになるけど、そこはダンスミュージックの展開よりゲームのスピード感や展開を優先してこうなった気がする。
(※)「Electronic Dance Music」の略。
kawagoe
勉強になります。
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Track04 About us

―― 次は「About us」、メニュー画面の曲ですね。

kawagoe
これは、加藤さんが生み出したメインテーマとなる「Eternity」の旋律を採用しつつ、そのメロディーに向かってどんなアプローチができるか、というのが根底にあって。

―― それで、共作ということで、連名表記になっているんですね。

kawagoe
そうですね。でも最初からこの曲調だったわけではなくって。初稿の作成前、当時出来上がっていた加藤さんの曲をいろいろ聞いて、なんとなく求められている方向性を掴んだつもりでまずお出ししたんですけど、「ちょっとお電話で修正点ご説明しますね」って言われてしまって(一同笑)
kato
どういう話だったの?(笑)
kawagoe
アコースティックでジャジーな方向に行きましょう、と。楽器の編成とか、具体的なゲーム画面の色合いとか、そういうのをしっかりお聞きしました。

―― もう少し詳しくオーダー内容をお訊かせいただけますか?

kawagoe
タイトル曲とバトル曲を繋ぐインターバルの曲なので、それぞれを補完する中間的なテンポ・雰囲気・テイストで、という感じですね。
kato
難しいね!(笑)
kawagoe
でも逆に言えば、ご指示をくださった竹内さんの中では明確なイメージがおありになったということですので、そこに寄り添えたならよかったなと思います。
kato
ジャジーな感じってことだけど、そこまで難しいコードはやってないよね。
kawagoe
そうですね。でも音階はリディアン音階(※)にして、“モードジャズ”と言うよりは“ゲーム音楽”と言えるようにはこだわりました。
 (※)ごく簡潔に説明をすると、ファにシャープをつけた音階のこと。

―― その他、こだわった点などはありますか?

kawagoe
そうですねぇ……。この他だと、エレクトリックピアノの音色ですかねぇ。ヴィブラホンも出てくるので、そこをちゃんと意識して音を選びましたね。あ、あとコンガの動きは、実際に演奏できるようにちゃんと考えて書いていますね。

―― それは打楽器奏者でいらっしゃる川越さんならではのこだわりですね!

kawagoe
ぜひ完コピしてやってみてください(笑)
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Track05 The noise

―― 続いては、緊迫したイベントシーンで流れる曲ですね。

kawagoe
指示書としては「緊張シーンの曲」ということでした。これに関しても、楽器の編成に関しては具体的なご指示があったので、そこは悩まずに、曲を作っていきました。
kato
ゲーム音楽の指示書で「緊張」とか「緊迫」とかって本当に多いよね(笑)
kawagoe
そうですね(笑) でも今回は現代劇ということで、普段とは違うアプローチができて楽しかったし、嬉しかったですね。
kato
確かに、いわゆるファンタジーもののRPGってわけじゃないからね。
kawagoe
あと、この曲は割と制作の後期に作ったものなのですが、この頃にはそれまでのやりとりを通じて「このプロジェクトはやりたいことを全部やっても許されるんじゃないか」って思い始めてて(一同笑)、普段使わないような音色を選んだり、かなり攻めてますね(笑)
kato
00:23あたりの3連符2つとか、すごく印象的だよ。
kawagoe
ありがとうございます。あれはピアノを思いっきりひずませた音ですね。

―― あれってピアノなんですか!ギターみたいな音になってますよね。

kato
あと、変拍子に聞こえるけど変拍子じゃない具合がいいよね。
kawagoe
ありがとうございます。 ……こんなに褒められたの初めてかもしれない(一同笑)

―― 普段とは違う、攻めたアプローチが功を奏したわけですね(笑)

kawagoe
嬉しいです。あ、タイトルの「The noise」というのも、そういう攻めた音がたくさん鳴ってるから、という意味でつけています。
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Track06 Discord

―― 次は、不穏な状況で流れてくるイベント曲ですね。

kawagoe
これはですね、不穏な、不安をかきたてられるようなメロディーをまず作ったあとに、20分くらい、ピアノをぐっちゃぐちゃに弾きながら録音して、今度はそのめちゃくちゃな音を逆再生して、聞きながら「気持ち悪い!」って思った瞬間の音を切り出して、曲に組み込んでいます。
kato
(心底驚いた様子で)そんなことやってるんだね!!
kawagoe
しかもですね、ずっと20分間、手とか腕とかだけでピアノを弾いていただけじゃあ似通ってくると思って、雑誌とかタオルとか、いろんなものを鍵盤の上に置いたり動かしたりしながら録音しました。
kato
よくそんな発想が出てきたね、思い付かないよそんなの。普通はさ、不協和音を使おうとか、そういうくらいじゃない?
kawagoe
確かにそうだと思うんですけど、不協和音って、結局「この音があるから気持ち悪い」とか「この和音のこの音がずれてるから気持ち悪い」とか、そういう「1つの和音の話」になるじゃないですか。今回はそうじゃなくて、言ってみれば「不協和音が2つ3つ同時に鳴ってる」みたいな状況をやってみたかったんです。
kato
(しみじみと)なるほどねぇ。
kawagoe
なので「Discord」という題名になっています。

―― 計算され尽くした不穏感、みたいなものを感じました。大納得です。

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