消滅都市 オリジナルサウンドトラック vol.1
座談会後半

消滅都市 オリジナルサウンドトラック vol.1
座談会後半
Track07 Avalon

―― 次は、各話の最後など、重要なステージで流れる曲ですね。

kato
この曲が、vol.1に収録されている曲の中では一番気に入っているかもしれない。
kawagoe
そうなんですか!加藤さんにしては珍しい曲調だなと感じていたんですが。
kato
うん、いわゆるテクノって、あんまり書いたことないんだけど、この曲はすごくすんなりできて、しかも「消滅都市」というゲームの雰囲気に合わせられたな、って実感があるね。

―― あまり書いたことのないジャンルの曲が一番のお気に入りって言える、というのはとても素敵なお話だと思います!

kawagoe
ちょっと加藤さんに質問してみたいのは、どうして通常ステージよりも重要なシーンでの曲なのに、こんな落ち着いた曲になったんですか?
kato
バトルだけどシリアス、っていうオーダーはいただいていて、なんて言うか、ガツガツする感じにはならないように、と思って作ったんだよね。
kawagoe
ありがちな手法としてのお話ですけど、ふつうだったらオフボーカルの「Avalon」の方を通常ステージの曲にして、ボーカルが入っている「I miss you baby」の方を重要ステージの曲にしたくなったりしそうなものじゃないですか。
kato
なるほどね。でも敢えて重要なステージの方を落ち着いた感じの曲調にして、ボーカルも抜いておくことで、ストーリーとか会話とかの方に集中させたかった、というのがオーダーの意図としてあったのかもしれない。

―― なるほど、そのお話で言うと、「歌ものは最後に流れるだろう」みたいな思い込みがどこかにあったから、逆に「I miss you baby」が最初にいきなり流れてきて強烈なインパクトになった、というのもあるのかもしれませんね。

kawagoe
そういう感情の起伏のデザインまでしっかりなされていたから、この曲が流れてくると、ストーリーとかキャラクターの内面とかに導かれていく感じがあるのかもしれませんね。 ……僕だったら、「もっとテンション高い曲じゃなくて大丈夫ですか?」って、不安になってしまいそうです、OKをもらっても(一同笑)
kato
ありがちなところを敢えて外した、新しい手法をどんどん取り入れたゲームに、音楽が寄り添えているなら嬉しいね。 ……あ、そう言えば、やっぱりこの曲でもゴリ押しハーモニーをやってるね(一同笑)
kawagoe
“ゴリハモ”ホントに流行ってたんですね(笑) でもゲーム中で音楽的な手法の統一がなされたのは結果的によかったんだと思います。
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Track08  Boot it

―― 次は、個人的に一番衝撃が走った曲、「Boot it」です。

kawagoe
そんなに衝撃的でした?

―― 危機的な状況での曲なはずなのに、悲観的じゃないと言いますか。

kato
あぁ、わかるわかる。勇ましい感じがあるよね。
kawagoe
それはですね、ちょっと自慢になるのですが、狙って書いている部分ですね。「The noise」とか「Discord」と同じ方向性にならないように、というのもありつつ、一般的に“危機的状況”というところにあてられる音楽にありがちな、低音域の弦楽器がベースラインを細かく刻んでて、高音域の弦楽器は音があちこちに跳ぶようなテクニカルなことをやってて……みたいな動きを、やらないことにしようと決めまして。

―― この曲にもそんなこだわりが!

kawagoe
ドラムの動きで焦燥感みたいなものは表現しつつ、弦楽器はずっと音を伸ばしているだけ、しかも、ほとんどメジャーコードだけ、ということにして、危機的状況の中にいるけど思わずニヤリと笑いが出てしまうような曲、というのを狙いました。「The noise」のときにも言いましたけど、そういうことが許されるプロジェクトなんじゃないかな、という感じがしていたので(笑)
kato
すごい。しかもそれだけじゃなくて、シンセが入っているというところがまたいい。このシンセがなかったら結構味気ない曲になってるからね。
kawagoe
このシンセの動きは、本当に自然と入れていた感じですね。この曲を書いていた頃にはもう制作も終盤で、どんどんと出来上がってくる加藤さんの曲も、ゲーム画面もたくさん見てきていましたから、もう「こうあるべきだ」みたいな感じですっと入れてました。

―― 世界観の共有ができていたんですね。素晴らしいと思います。

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Track09 Wizard

―― さぁ、次は強敵ボスとのバトル曲、「Wizard」です。

kawagoe
これも、いい意味でイカレた加藤さんの曲ですね(一同笑)

―― ブラックな加藤さんが見え隠れしますね(笑)

kawagoe
もうね、この曲を書いているときの加藤さんに話し掛けていたらきっと噛みつかれていたんじゃないかって思えるくらい尖ってますよね(笑)

―― オーダーとしてはどんな内容だったんでしょう。

kato
いくつか方向性とかイメージを共有するための参考曲をいただきつつ、通常ボス曲よりも緊張感が増すように、と。
kawagoe
そのざっくりした指示だけでこの曲になるんですね……!
kato
やってることはジュリアナ・テクノっぽいんだけど、ハード・ハウスっぽいとも言えるかなぁ。昔のジュリアナ・テクノにはこういう気持ち悪い感じの曲はあったと思うんだけど、この曲にはあの“イケイケ感”がないし。

―― 個人的な感想ですが、冒頭のボイスが本当に気持ち悪くて(一同笑)

kawagoe
「Avalon」からの落差と言いますか、あの曲からこの曲に繋がって、ここまで「I miss you baby」の女性ボイスしか聞いていなかったユーザーに突然超低音の男性ボイスを聞かせて、しかもそのおっさんが何か笑ってる、っていうね(一同笑)

―― そうですそうです、おっしゃるとおりです(笑)

kawagoe
僕の個人的な感想としては、この曲は、加藤さんが長年たくさんの音楽を書いてきたとか、たくさんの音楽を聴いてきたとか、そういう経験に裏打ちされているだけじゃない、加藤さんの内面のエナジーの量を感じるところがすごく好きで。やっぱり加藤さんはエナジーの塊なんだな、と再認識しました。
kato
なるほど(笑)
kawagoe
音楽的なところで言えば、さっきから気持ち悪いって連呼してますけど(一同笑)、たとえばオーケストラヒットの音にデチューンをかけて気持ち悪くしている、とか、そういう音色的な工夫はこの曲ではあまりされてないですよね?
kato
してないね。そのまま鳴らしてる。
kawagoe
それでこのテンションを維持している、というところがやっぱりすごいですね、この曲は。

―― トラップの回避に必死になったり、ボスの強力な一撃になんとか耐えたり、という、ゲームの展開とユーザーの心情をしっかりと支えていると思います。

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Track10 Fragment

―― そして次は、強敵に打ち勝ったステージクリアBGM、「Fragment」です。

kawagoe
これはですね、一番最初にお出しした曲は、ステージクリアということで、もっと勝利を称えるような派手なものだったんですけど、ハッピーすぎる、という理由でリテイクになりまして。
kato
クリアリザルトが出る画面、っていうのは、ユーザーにとって嬉しい画面のはずなんだけど、そこもまた、落ち着いた曲調のものが流れる、ってデザインになってるんだよね。
kawagoe
オーダーとして、ステージ曲・ボス曲の流れを断ち切らないよう、雰囲気に合わせて気持ちよくかっこいい曲を、とはいただいていたんですが、ここまで落ち着かせたものをお出しして「これがいい」と言っていただいたときは驚きました。

―― 逆に、この曲の上で鳴る効果音が少し派手め、と言えるかもしれません。

kato
(待ってましたとばかりに)そう、効果音! この次の曲でも話そうと思ってたけど、このゲームは本当に効果音が秀逸だと思うんだよ!
kawagoe
蛭子さん(※)がこの場にいないのが残念ですね!
(※)蛭子一郎氏のこと。消滅都市の効果音を担当。
kato
このクリアリザルトの画面で鳴る音だけじゃなくて、タイトル画面で静かに「Eternity」が流れているところで、ユーザーが最初におこなうアクションに対してのあの「ガシャーン」って音とか、ステージ中のあらゆるアクションに対しての音とか、本当によくできてると思うんだよね。

―― BGMに埋もれてしまわないように、BGMとは違う音域というか、帯域を狙って制作されている、というお話でしたよね。

kawagoe
クリアリザルトの画面で鳴る効果音に関しては、「Fragment」のOKが出たあとに、BGMに合わせて作り直してもらう、という贅沢なことをやっていただきましたしね。
kato
そこまで徹底的にこだわっているから、ゲームへの没入感が上がっているんだと思う。

―― 楽曲の話に戻しますと、「Fragment」のドラムがキックだけ、というのが、かなり雰囲気づくりに貢献していると思います。

kato
そうそう。リズムがキックだけで、ベースが八分音符の刻みをやっているだけなんだけど、まだ画面としてはタクヤのバイクが走っているから、疾走感が失われてないのがすごくマッチしてていいよね。
kawagoe
(照れた様子で)恐縮です。最初はハイハットの音とかも入っていたんですけど、曲調を落ち着かせるために抜きました。そして、そのドラムのキックの音色なんですが、実はこれにはかなりこだわりまして。

―― ぜひお聞かせください。

kawagoe
Radioheadというバンドの「Everything in Its Right Place」という曲があるのですが、この曲のキックの音が本当に素晴らしいんですよ。やわらかくて芯のある、まるで心臓の鼓動のような。なので、そのキック音を越えてやる、くらいのつもりで作りました。

―― なるほど。

kawagoe
そしたら完全に偶然なんですけど、「Everything in Its Right Place」が消滅都市の副題になってて! なんかちょっと運命的なものを感じましたね(笑)

―― すごい! これを運命的と言わずしてなんと言うのか、というお話ですね!そしてもう一つ、このサントラ版では、サントラ用に後半部分が追加されています。

kawagoe
これはもう、確かに新たに追加しましたけど、「元々こういう曲だったよね」と思いながら追加しています。自然と「Eternity」の旋律は聞こえてきていたので。本来の姿に戻して行った感じです。

―― 僕も、同じようなイメージを持っていたので、まったく違和感なく聞けました。

kawagoe
このかたちで収録してもらえて本当によかったです。
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Track11 消滅都市 Special Mix
※この楽曲はアルバム限定配信のため、ご試聴いただけません。

―― さて、ここからはボーナストラックのお話を伺いたいと思います。まずは「消滅都市 Special Mix」から。

kawagoe
(のけぞるようにして喜びを表現しつつ)出た、出ましたよ!(一同大笑い)
kato
(笑いながら)ステージ曲とボス曲のメドレー、だね。

―― しかも、一部効果音入り!

kato
効果音は絶対に入れようと決めてた。さっきも言ったけど、やっぱりこのゲームの効果音は本当にすごいと思うから。
kawagoe
こういうことができるから、本当にゲーム音楽って楽しいなって思います。映画の音楽ではこんなことできないじゃないですか、効果音のはたらきが違うから。
kato
そうだね。

―― 消滅都市は、まるで音楽ゲームを遊んでいるかのような感覚になります、というご感想もたくさんいただいておりますので、効果音の使用含め、そういった印象を受けていらっしゃったお客様にはいっそう喜んでいただけるメドレーになっていると思います。

kato
一応、メドレーに使ったどの曲でも、原曲では使っていないフレーズを足したり、ちょっと展開を工夫したりして、このメドレーの中でしか聴けないアレンジになってる、というのがポイントになるのかな。

―― 実は1度だけリテイクをもらったんですよね。でもその理由が……。

kawagoe
「もっと長いバージョンで聴きたいです!」という(一同笑)
kato
本当にありがたい話で(笑) 最初に出したサラッとしたメドレーから、1曲1曲をもっとしっかり聴かせるメドレーに仕上げました。
kawagoe
これを聴きながらドライブに行きたいです(笑)

―― とてもよく分かります(笑)

kawagoe
でも、いわゆるレーシングゲームとか、ドライビングバトルみたいなゲームとかとは違うアプローチなわけじゃないですか、消滅都市のBGMって。スクーターは走っているけど、BGMが支えているものは“ストーリーのある疾走感”だから、独特な仕上がりになったのかな、と思います。
kato
アクションとしても、昔ながらのシビアな部分があるしね。
kawagoe
ですね。ストーリーの先も気になるし、チェイン繋げるのも必死だし、たまにユキちゃんから「スキルの指示も忘れないでね!」とか言われるし(一同笑)、という、ユーザーの皆さんの新鮮な体験を、支えているんだなと改めて思います。

―― こちら、アルバム限定配信となっております。ぜひアルバムをカートに入れていただき、ご堪能ください。

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Track12 I miss you baby (Remix Version)

―― それでは、いよいよ最後になりました。 「I miss you baby (Remix Version)」についてお伺いします。

kawagoe
最初に「I miss you baby」のリミックスを作らせてもらえる、と聞いたときに、2つの目標を立てまして。まず、「加藤さんが喜んでくれるものにすること」。次に、「GREEさんが喜んでくれるものにすること」。

―― 素敵な目標です。

kawagoe
加藤さんのおかげで、僕もありがたいことにご好評をいただける曲が書けたので、まずは加藤さんにお礼をしたかったんです。そしてGREEさんには、こんなに素晴らしいプロジェクトに参加させてもらえたことへの感謝をお伝えしたくて。

―― なるほど。

kawagoe
東京ゲームショウ2014のステージイベントに呼んでいただいたときに、下田さんが壇上で、「ノイジークロークの皆さんに出会えて本当によかった」っておっしゃってくださったのが本当に嬉しくて。報道の人も業界の関係者もいっぱい見ている中でそんなことを言ってくださるとは思わなかったんですよ。で、そのあとにこのリミックスの作業を開始したので、心があったかいまま、途中まで作業できました。

―― 途中まで?

kawagoe
はい。前半はそんな想いで作業をしながら、02:08あたりから先は、先ほどから何度か言ってきた話の流れに繋がるんですけど、「どこまでやったら怒られるかな」って考えながら作業しました(一同大笑い)

―― せっかくいい話だったのに!(笑)

kawagoe
いや、本当に感謝を表しているんですよ?(笑) こんな作品に携われてよかった、こちらこそ素敵なチームの皆さんに出会えてよかった、って気持ちは込めていて、「でももう一歩攻めてみてもいい?」みたいな気持ちで後半を作って、「少々挑戦的なアレンジになっておりますが……」って書き添えて提出したんです。
kato
そうだったね(笑)
kawagoe
そしたら下田さんから「意外とふつうでした」ってお返事がきて、「まだ行っていいんだ、どこまで行っていいんだ」って思った、っていう(一同笑)
kato
ふつうだったらドラムにディストーションかけたりしたら怒られそうだもんね(笑)
kawagoe
本当に自由にやらせていただきました(笑) でもやっぱり、このプロジェクトへの感謝とか、制作期間の思い出とか、そういう全部を思い返しながら作業ができたので、本当に嬉しかったです。

―― 初めてこの曲を聴かせていただいたとき、この曲でムービーが作れるんじゃないか、と思いました。それだけドラマティックで、訴えてくるものがあります。

kawagoe
ありがとうございます。

―― アルバムの最後のトラックとしても、完結感のある素晴らしい曲で、本当に嬉しいです。……といったところで、vol.1に収録されている楽曲解説を終えようと思います。本日はお忙しい中、たっぷり語っていただきありがとうございました。引き続きvol.2の方の解説もよろしくお願い致します!

kawagoe
ありがとうございました!
kato
ありがとうございました!
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